スマホやタブレットに3.5mmイヤホンジャック(ヘッドホンジャック)を搭載しないという流れができてから5年以上経ちました。
当初、反発の声も上がっていましたが最近ではイヤホンジャックの復活を願う声をあまり聞かなくなってきたように感じます。
イヤホンジャック廃止の流れに勢いをつけたのは間違いなくAppleですが、なぜAppleはイヤホンジャックなしの「iPhone」を発売したのでしょうか。そしてなぜ、他のスマホメーカーもこのトレンドに乗ったのでしょうか。
今回はAppleやその他スマホメーカーがイヤホンジャックをなくした表向きの理由とあまり話されない本当の目的・理由についてお話します。
- イヤホンジャックを廃止することによるメリット
- イヤホンジャックがないスマホが生まれた”本当”の理由
- 今でも有線イヤホンを使うためのガジェット
イヤホンジャックとは
そもそも「イヤホンジャック」ってなんなの?という人向け。
イヤホンジャックとは、3.5mmの「ミニプラグ」と呼ばれるオーディオ端子のことです。
以前の「iPhone」や各種スマホではこのイヤホンジャックが搭載されていたので、有線イヤホンを当たり前に使用することができました。
世間的にはこのジャックを「イヤホンジャック」や「ヘッドホンジャック」、そして端子のサイズを指して「3.5mmジャック」と呼びますが、もともとこの端子は「フォーンコネクタ」(Phone Connector)と呼ばれていました。
Wikipediaによると、この端子は19世紀に電話交換台で使用するために発明されたものだそう。
スマホやタブレットからイヤホンジャックがなくなった理由
Appleが同社スマホ「iPhone」で初めてイヤホンジャックを廃止したのは2016年に発売した「iPhone 7」です。その後、「Android OS」を搭載する多くのスマホメーカーもイヤホンジャック廃止の流れに乗じ、最後の砦と思われたSamsungの「Galaxy」スマホも2019年発売の「Galaxy Note 10」以降、多くのスマホでイヤホンジャックを無くしました。
復活を望む声があるにも関わらず、多くのスマホメーカーがイヤホンジャックを廃止するには大きなメリットがあるはずです。いくつかのメーカーはイヤホンジャックを廃止した時にいくつかの理由を明らかにしてくれました。まずはその理由についてご紹介します。
イヤホンジャック廃止によるメリット
- より大きなバッテリーの搭載が可能に
- スペース拡大に伴いカメラが使用できる範囲が向上=カメラ性能の向上
- その他(例として軽量化や防水性能の向上等)←メリットとしてあげるべきか迷うレベル
基本的にどの理由でも共通しているのが3.5mmイヤホンジャックを廃止することによって大きさの限られたスマホ内部のスペースをより広くすることができるというものです。
モデルによって筐体サイズは異なりますが、スマホを作るには約6インチという小さなスペースに全てのパーツを詰め込まなくてはなりません。
お弁当箱でイメージしましょう。お米が弁当箱の3分の1を占める場合、残り3分の2のスペースにおかずを詰めなければいけません。
限られたスペースの中で何をどこに配置するか。まず考えなくてはなりません。そして、お米(バッテリー)の量をどれだけにするか、どんなおかずを入れるかを考える必要があります。
また多くのおかずを詰めたいと考える場合、サイズや重要度的に入れないほうが良い、入れなくても問題ないおかずも出てきますよね。
つまり、より大きなバッテリーを搭載するために、より優れたカメラセンサーを搭載するために、より入れたい機能を搭載させるための犠牲となったのがイヤホンジャックです。
そしてイヤホンジャックを無くしても良いと判断された大きな理由がワイヤレスイヤホンの需要が驚くべきスピードで拡大していたということです。
このワイヤレスイヤホン市場の拡大という理由を除いたメリットは全て表向きの理由だと考えて良いです。実際スペース拡大によって得られるメリットはあるのでこれらは嘘ではありませんが、より大きな理由が背後に隠れています。
ワイヤレスイヤホン(ヘッドホン)市場は2020年現在も急速に拡大を続けています。もちろん、今も続くこのトレンドは「iPhone 7」以降のイヤホンジャック廃止が拍車をかけていることは言うまでもありませんが、この流れを作り出すことこそAppleが「イヤホンジャック」を廃止した本当の理由だと僕は考えています。
Appleはより多くの売上・収益を作るために「イヤホンジャック」を無くしたのです。この結果を作り出すことを確信して。(確信してたかはわからないけど)
イヤホンジャックがないスマホが登場した”本当”の理由
これを知るにはAppleが「iPhone 7」以降、イヤホンジャックを廃止したことで何が起きたかを知る必要があります。
何が起きたか。2020年現在ワイヤレスイヤホン市場で最も多くのシェアを獲得しているのはAppleの「AirPods」です。
それも僅差ではありません。ぶっちぎりの独走です。
StrategyAnalyticsによると、Appleは2019年に約6,000万台の「AirPods」販売に成功しており、「AirPods」が属する完全ワイヤレスイヤホン市場全体の売上が200%増加しています。この流れは今後も続き2024年までにAppleはワイヤレスイヤホンというカテゴリだけで1,000億ドルの収益を達成する見込みです。
1,000億ドルですよ。日本円で少なく見積もっても10兆円以上です。
これは2019年の完全ワイヤレスイヤホンカテゴリのメーカー別販売台数の比較です。
Appleは少なくともこれだけのワイヤレスイヤホン需要を作り出したわけです。
どうやって需要を作り出したのか?
ワイヤレスイヤホンを買わなくてはいけない状況を作り出したということです。
どうやって?
もうおわかりですよね。そうです。イヤホンジャックの廃止によってです。
もともとイヤホンの需要が高いことは明らかなので、それをワイヤレスへと移行させる流れ(需要)を半強制的に作った。これが上手く作用し結果的にAppleはワイヤレスイヤホン市場でトップシェアを勝ち取りました。
とはいえ、イヤホンジャックの廃止だけが今のワイヤレスイヤホン需要を作っているわけではありません。ワイヤレスイヤホン市場の需要は以前より年々増しており、その背景にはより良いユーザーエクスペリエンスの提供やノイズキャンセル機能技術の導入などが挙げられています。
そのため、Appleがイヤホンジャックを廃止せずに「AirPods」を発売してもトップシェアという結果に変わりはなかったかもしれません。
しかしながらAppleのこの判断によって必然的に需要が生み出されたことは言うまでもありません。実際にアメリカのBluetoothヘッドホン市場(イヤホン・ヘッドホン含む)はAppleがイヤホンジャックを廃止した2016年以降、市場規模の成長率は向上しています。GrandViewReseachによるとこの規模拡大のスピードはより加速する見込みで2019年〜2025年までの年間平均成長率は12.3%にまで上ると言われています。
なぜAppleが「iPhone 7」でイヤホンジャックを廃止したかは分かりませんが、Appleの市場分析から2016年が最適なタイミングだと踏んだのでしょう。市場の需要を操作・誘導できるタイミングだと。
実際のところ、そこまで把握していたのかは分かりませんが、仮に把握していた場合、10兆円以上の市場規模を意図的に作り出すことができるのであれば、その市場に参入しない理由はないでしょう。
そして多くのスマホメーカーもこの流れに乗じ、自社ブランドのワイヤレスイヤホンを発売するのはやはりそこに確かな需要があるからです。カテゴリ全体で見たときのシェアは圧倒的にApple優位ですが、Appleが対象とする顧客層は基本的に先進国です。(アメリカ・日本・イギリス等で圧倒的シェア)
しかし、Samsungのように新興国を中心にシェアを拡大しているスマホメーカーは新興国向けに価格や品質を最適化したイヤホンを出すことでAppleのテリトリーと真っ向から勝負することなく上昇し続ける需要を獲得することができるわけです。
Samsungは現状先進国・新興国両面に対応できる価格帯のイヤホンを発売していますが、今後両市場それぞれに特化させたイヤホンを発売するのではないかと予測しています。そしてその流れはSamsungだけでなく多くのスマホメーカーが追随する流れとなり、結果的にワイヤレスイヤホン市場をさらに拡大させるはずです。
有線イヤホンを使い続けるために必要なガジェット
どれだけワイヤレスイヤホン需要が高まったとしても、いくら今後ゲームシーンでワイヤレス機器の利用が増えてくるとしても、有線イヤホンを使い続けたい人もいるはずです。
最近発売されたほとんどのスマホやタブレットに直接有線イヤホンを接続することはできませんが、幸い今のスマホにはまだLightningやUSB-Cといった充電・データ転送用のポートが搭載されています。このポートにある「3.5mm to USB-C」のような変換器を装着してあげることで現状どんなスマホでも有線イヤホンを使うことができます。
FPSや音ゲーのような音の遅延が致命的になり得るタイトルをプレイする人は有線イヤホンにまだまだアドバンテージがあるといいます。(参考:LatestOnePlus/Twitter)
もし、音の遅延を可能な限りなくしたい、より良い音質で音楽が聴けるイヤホンを使いたい場合は以下のような変換器を使い有線イヤホンを使えるようにしてみると良いでしょう。
「iPhone」なら「Lightning to 3.5mm」(5色)
「USB-Cポート」のスマホなら「USB-C to 3.5mm」(2色)
まとめ
各種スマホメーカーがイヤホンジャックを廃止する理由。表向きにはより品質の良いスマホを作ることにありましたが、実際には、大きな需要があったからだと考えています。
何かが失くなれば、どこかで新しい何かが生まれ。
新しい何かが生まれれば、どこかで何かが失われる。